今回は書評企画、ということで私からは「ルバイヤート」(岩波書店刊、オマル・ハイヤーム著、小川亮作訳)を紹介したい。
(本当はしなー氏と同じ書籍を紹介する予定だったが、色々あって読めなかったので急遽変更しました。悪しからず)
目次
書籍の概要
この書籍は、11世紀にペルシア(現在のイラン)で活躍した学者、オマル・ハイヤームが著した詩集である。
世界史を学んでいらっしゃった方なら、イスラム文化史辺りでこの詩集や作者の名前くらいは聞いたことがあるかも知れない。
「ルバイヤート」を著したハイヤームは、数学・天文学で大きな功績を残したとされる。
著名なものとしては、ユークリッド幾何学への反証、極めて正確な暦の作成……等があるらしいが、これをド文系の私が解説することは不可能である。
気になる方は各々ググって欲しい。とにかく、非常に優れた研究者だったということだ。
彼は、これら諸学問を追求した末の晩年にこの詩集を遺したそうだ。
人生のはかなさ、苦悩、無常を描いたとされるこの詩集。アラビア世界に名を残す著者が、これらをどのように表現したのかを、見ていこう。
詳細~酒への過度の礼賛・神格化などなど~
墓の中から酒の香が立ちのぼるほど、
そして墓場へやって来る酒のみがあっても
その香に酔い痴れて倒れるほど、
ああ、そんなにも酒を飲みたいもの!
この訳書には143編の詩があるが、そのうちの一つを抜粋してみた。
こんな調子で、酒への愛を語る詩が結構多い。
訳者による解説によれば、
「人生への懐疑や社会生活上の苦しみから来る心の悩みを慰めるためにも、若いころから酒に走っていたものらしい」(小川1949:141)
「だがこの深い憂愁を慰めるものは、結局酒であり」(小川1949:148)
とのこと。
この詩集が書かれた頃ペルシアは既にイスラム勢力に征服されていた。
知っている方も多いかも知れないが、イスラム教の経典たるコーランでは、飲酒を禁じている。
そうした状況で、このような詩を大量に書いてしまうハイヤームのロックさたるや半端ない。
そもそも、ハイヤームを含むペルシア人にとって、アラブ人によって興されたイスラム教は異民族の宗教で、そのことも含めて、かなり著者はイスラム教に対して懐疑的な見方を持っていたようだ。
その結果、
マギイ(※)の酒に酔うたとならば、正にそうさ。
異端邪教の徒というならば、正にそうさ。
しかしわがふるまいを人がどんなにけなしたとて、
われはどうなりもしない、相変わらずのものさ。
(※):ゾロアスター教の司祭。ペルシアでは、イスラム以前にはゾロアスター教が広く信仰されていた
という詩を残すに至っている。
そして、序盤でも紹介した通り、ハイヤームは学者として活躍した。
学問をひたすら追求し、多くの功績を残した彼は、
幼い頃には師について学んだもの、
長じては自ら学識を誇ったもの。
だが今にして胸に宿る辞世の言葉は——
水のごとくも来り、風のごとくも去る身よ!
と、自らを苦しめてきたこの世の真理を解明できないもどかしさを嘆いている。
こうして、訳者が解説でも述べた通り、嘆きの捌け口を酒や音楽といった、享楽的なもの、美しいものへと求めていったのだろう。
以下の詩は、その考え方を象徴するものだろう。
永遠の命ほしさにむさぼるごとく
冷い土器に唇触れてみる。
土器は唇かえし、謎の言葉で——
酒をのめ、二度とはかえらぬ世の中だと。
まとめ
なんだかレポートか何かみたいになってしまった。読み辛いと感じた方には申し訳ない。
イスラムへの反骨精神、思い通りにならない世の中への嘆き、享楽的なもの(特に酒)への賛美……これらが凝縮された本書は、世の中に不満を持ちながら、日々の生活を送り、ストレスをどうにか娯楽で発散している現代日本人にも必ずや「刺さる」はず。
特に酒への礼賛ぶりは
「コイツアル中か?」
って心配になるほど凄まじいものがあるので、是非読んで欲しい(酒好きなら何だかんだ共感してしまうかも……?)。
本書は岩波文庫から発売されており、書店やKindleでも容易に入手可能なはず。
また、青空文庫でも閲覧可能なので、ググればすぐに読める(個人的にはお金を出して買って欲しい気もするが……訳者の解説も未収録だし)。
※なんと、Kindle版だと無料で読めるみたいです。
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